粗利率の目安を調べる前に。率が同じでも、残る額は変わります
結論から、いきます。粗利率の目安を調べても、次に何をするかは決まりません。
「うちの粗利率、30%なんだけど、これって普通なの?」——気になりますよね。検索すると業種別の表がたくさん出てきます。
でも、その表を見たあと、何をしましたか。
たぶん「まあ、そんなもんか」で終わっていると思います。それは社長のせいではありません。率という数字が、そもそも次の行動を教えてくれない形をしているからです。
今日は、その理由と、代わりに何を見ればいいかを置いていきます。
粗利率の計算式と、出し方
先に式だけ置いておきます。必要なのはこれだけです。
粗利額(売上総利益) = 売上高 − 売上原価
粗利率 = 粗利額 ÷ 売上高 × 100
損益計算書に「売上総利益」という行があれば、それが粗利額です。書いていなければ、売上高から売上原価を引いてください。
例で見ます。
| 売上高 | 3,000万円 |
| 売上原価 | 2,100万円 |
| 粗利額 | 900万円 |
| 粗利率 | 900 ÷ 3,000 × 100 = 30% |
⚠ 売上原価に何を入れるかは、会社によって違います。製造業なら材料費と労務費と製造経費、小売なら仕入原価。顧問税理士がどう分けているかを一度確認してください。ここがずれていると、同業と比べても意味がありません。
式はこれで終わりです。ここから先が本題になります。
粗利率は、どのくらいあればいいのか
先に、いちばん聞かれることに答えておきます。
「いくつ以上あれば安心」という数字は、ありません。業種で違いすぎるからです。仕入れて売る商売は低く、人の時間が原価の中心の商売は高く出ます。同じ会社でも、扱う商品が変われば動きます。
代わりに、自社にとっての合格ラインは自分で出せます。
必要な粗利率 = (固定費 + 欲しい利益)÷ 売上高 × 100
固定費が年3,000万円、利益を500万円残したい、売上が1億円なら、(3,000+500) ÷ 10,000 × 100 = 35%。この会社の合格ラインは35%です。業種平均が何%でも関係ありません。
⚠ そして、ここからが本題です。この35%を満たしていても、手元に残る額は会社によって何倍も違います。理由を書きます。
なぜ、目安と比べても行動が決まらないのか
上の式をもう一度見てください。粗利率は割り算の答えです。 そして割り算は、分子(残った額)と分母(売上)の両方を消して、比だけを残します。
だから、こういうことが起きます。
| A社 | B社 | |
|---|---|---|
| 売上 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 粗利額 | 900万円 | 900万円 |
| 粗利率 | 30% | 30% |
| かけている人手 | 2人 | 6人 |
率はまったく同じ30%です。でも、この2社はぜんぜん違う会社です。
A社は1人あたり450万円の粗利を作っています。B社は150万円。3倍違う。
率の表を見て「30%だから業種平均どおり」と判断すると、この差がまるごと見えません。
率が下がっても、額が増えることがある
もう1つ、率で判断すると危ない場面があります。
たとえば、こういう話が来たとします。
「まとめて買うので、1個あたり10%安くしてくれませんか」
率で考えると「粗利率が下がる。よくない」となります。でも額で見ると、逆のことが起きる場合があります。
| 今まで | まとめ買い | |
|---|---|---|
| 1個の販売単価 | 6,000円 | 5,400円(10%値引き) |
| 1個の原価 | 3,000円 | 3,000円(変わらない) |
| 1個あたりの粗利 | 3,000円 | 2,400円 |
| 粗利率 | 50% | 44%(率は下がる) |
| 1回に売れる数 | 10個 | 50個 |
| 1回の粗利額 | 30,000円 | 120,000円 |
| 配送・段取りの手間 | 1回分 | 1回分(同じ) |
率は下がったのに、額は4倍になっています。しかも手間は増えていない。
⚠ もちろん、逆のケースもあります。数が増えないのに単価だけ下げたら、ただの損です。だから毎回、額で計算する必要があるんです。
「値引きは絶対ダメ」でも「まとめ買いは正義」でもありません。そのつど額で計算すれば、答えは出ます。
このあたりの考え方は、限界利益の計算式と、値引きの本当の怖さにもう少し詳しく書いています。
じゃあ、何を見ればいいのか
粗利額を、かけた時間で割ってください。
時間あたりの粗利 = 粗利額 ÷ その仕事にかけた時間
これを、商品別・取引先別・事業別に並べます。
率で並べたときとは、順番が変わります。率がいちばん高い商品が、時間あたりでは最下位、ということが普通に起きます。手間がかかっているからです。
並べ方はこれだけです。
| 商品/取引先 | 年間の売上 | 年間の粗利額 | 粗利率 | かけた時間 | 時間あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 1,000万円 | 400万円 | 40% | 300時間 | 13,300円 |
| B | 1,600万円 | 800万円 | 50% | 1,200時間 | 6,700円 |
| C | 500万円 | 150万円 | 30% | 80時間 | 18,800円 |
率も額もいちばん大きいBが、時間あたりでは最下位。Cは率も額もいちばん小さいのに、時間あたりでは1位。
こう並ぶと、次にやることが自然に決まります。Bにかけている時間を減らして、その分をCに回せないか。順番が見えるんです。
率の表を見ても、ここまで来ません。それが「行動が決まらない」の中身です。
それでも業種の数字が見たい場合
比較そのものが無駄というわけではありません。銀行に説明するときや、事業を新しく始めるときには要ります。
公的な数字なら、ここにあります。
- 中小企業庁「中小企業実態基本調査」 — https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/index.html
建設業・製造業・卸売業・小売業・飲食サービス業など11産業について、業種別・規模別の集計が公表されています。ネット記事の孫引きではなく、元の統計を見てください。加工されたまとめ記事は、いつの数字か分からないことがあります。
令和6年度決算の業種別の粗利率・営業利益率・経常利益率を1枚の表にまとめたものと、返済額から自社に必要な利益率を逆算する式は、利益率はどれくらいあればいい?に置きました。
⚠ ただし、見たあとに「で、うちは何をするか」まで進めるのは、時間あたりの表のほうです。順番としては、先に自社を並べて、あとから統計を見るほうが役に立ちます。
今日、やること
紙に3行、書いてみてください。
① いちばん売上が大きい商品(or 取引先):__________
② その年間の粗利額:__________ 万円
③ それにかけている時間(ざっくり):__________ 時間
②÷③を出したら、2番目に大きいものでも同じことをしてください。
2つ比べるだけで、もう順番が見えます。全部やる必要はありません。
数字が思ったより低くても、気にしないでください。低いと分かった時点で、打つ手が決まります。それがこの計算の目的です。応援しています。
よくある質問
粗利率の目安や理想は、業種によってどれくらい違いますか?
業種でまったく違います。卸売業のように仕入れて売る商売は率が低く、サービス業のように人の時間が原価の中心になる商売は高く出ます。同じ会社でも扱う商品が変われば動きます。公的な数字を見たい場合は、中小企業庁の「中小企業実態基本調査」に業種別の集計があります。ただし、その数字と自社を比べても、次に何をするかは決まりません。
粗利率が業種平均より低いと、経営が悪いということですか?
そうとは限りません。率が低くても回転が速ければ、年間で残る額は大きくなります。逆に率が高くても、1件に何日もかかっていれば額は残りません。率は「1回の取引でどれだけ乗っているか」しか表しておらず、「年間でいくら残ったか」は別の数字です。判断するなら額のほうを見てください。
率ではなく額で見るとき、具体的に何を計算すればいいですか?
粗利額を、その仕事にかけた時間で割ってください。「粗利額 ÷ かけた時間」です。商品別・取引先別・事業別に並べると、率で並べたときとは順番が変わります。率がいちばん高い商品が、時間あたりでは最下位ということが普通に起きます。値引きの判断も、この数字で見ると変わります。
小さな会社の売上アップ・利益改善のご相談を承っています。
お問い合せはこちら